ナイフを持ってることはひみつ(古鷹青葉)





誰かがこう思って、誰かがこの思いを籠め、誰かがこう願って、作られた。
誰かが断腸の末にあの命令を下して、誰かが命を賭してそれを遂行しようとした、
そんな記憶、記録に折り重なれられて、生まれ出てしまった私たち。

それは私たちの根幹であり、礎だけれども。
それ、に囚われ過ぎるのは愚かなことだと、いつも陽気で、とても格好の良い軽空母のお姉さんが言っていた。


……私はこの眼、好きなんだけどなぁ


目の前7cm、キスする寸前の恋人が、あまりに痛そうな顔をしていたから、というのは、言い訳にもならない。
あ、やっぱり、もっと痛そうな顔つきになった、ひょっとこみたいに伸ばされて、私に触れるはずだった唇がぐうっと下がって、青葉の奥歯が食いしばられるのが、とてもよくわかった。
いっぱいの感情を記憶を燃やして、記録の切れ端たちに傷つけられきった瞳までが、きゅうと縮こまって、からだ、まるごと、私から離れようとする。


…ごめんなさい、


私の方こそごめんね。ごめん。
青葉がこの表情をするのを知ってつぶやいた、私にキスできなくなるってわかってたのに言ってみせた、
そうして、青葉が耐えられなくなるのまでを予想しながら、それを、ゆるして、あげなかった。


あおばは、きらいです。

うん、知ってる。


ねえ、あなたには、ずうっと内緒にしておくけれど。
青葉がね、私のことを嫌いっていうの、すごく好きなんだ。
とてもきれいな髪に私の小さな手を埋めて。
巡洋艦の中でも一二を争う程にあちこち小ぶりなこの身体も、誰かの計算、現実との折り合い、どうしようもない祈りによって出来たもので。
おんなじ「めかにずむ」で出来た青葉は、どこもかしこも、ほら、こんなにもきれいなんだよ?
(古鷹ってば、長いカタカナを発音すると舌っ足らずになるよなあ、なんて言ってくれたのは、私のすぐ下の妹だ。……私よりよっぽど、滑舌悪いくせに。)


ねえ、キスして

…どこに、ですか

どこでもいいよ


……好きになれればよかったのに。
そのつぶやきを口の中で噛み潰した後で、私にそうっと触れ直す、おずおずと、それでも絶対にいちばんに、左目に落とされる唇が、
いつも少しだけ震えているところがとても好きなのは、きっと、誰のせいにもできない私だけのものだ。





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タイトルはふたりへのお題ったーよりお借りしました。












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