おとぎばなしと微笑む(加賀×翔鶴)





誰かを殺す理由が欲しかった。
ひとのかたちを持って生まれ直してきてしまった私たちが、(――私が、)ひとのかたちを垣間見せながら浮かび上がってくる彼女たちを、(おぞましい程に似通っている、無名の娘を、)呵責なく、……いいえ、いっそ喜びさえ感じながら葬りさることができる、口実を、与えて欲しかった。
……弱い、女でいたかった。
(……私、だって。)







……っ、……んっ、


そんな、どうしようもない弱音を。じわりじわり、臓腑の隙間から這い上がらせるように考えてしまったのは。
もういっそ殺して欲しいとも、もうこれで死んだっていいとも思う、苦しい、気持ち良い、つらい、しあわせな、地獄の釜の中のような快楽の渦にいよいよ飲まれきってしまおうとした頃合だというのだから、……本当に。
救いようが無い。頭の片隅、ほんのわずかばかり残った理性が軽蔑の言霊を、このときばかりいやにきっぱりと告げてくる。
あ、……あ。胸元を伝っていった加賀さんの、左手の指までもが、私の足の付け根を目指して、滑り落ちていく感触に身をしならせれば、思った通り、いともあっさりと。今まで弱々しく暴れていた私の腿を、そこから先を、ぐいと押さえつけて、歯向かえなくする、逃げられなくする、食い込みは快楽のためでは無いから純然たる痛みが、……滴る程に気持ち良い。


は、……ふ、ぁ、


さっきからぐらぐらと、後ろにばかり反ってしまって苦しい首を、無理やり逆側に傾けて眼下の加賀さんを見つめようと試みる。
あかく染まりきって、唾液や汗や、……鬱血や噛み跡までを万遍なく塗(まぶ)している自分の痴態越し、いちばんはしたなく、ひくりひくりとし続けている(ことなんて、自分でようく、わかっている)ところに吸い付いたまま。ちらりとこちらを見やってくれた彼女に、思わず反応した証は小さな痙攣として、そこ、から、呆気なく伝わって。
……くすり。笑う加賀さんの吐息に、仰け反る、ことは、なけなしの腹筋を使って耐えた。
潤んだ瞳の向こう側にいる加賀さんは、いつもよりも優しいから、いつもより、容赦が無い。


どうしたの、


死にたい、も、殺して、も、もう誰も殺したくない、も。
今、残る理性はほとんど本能に近しいもので、おおよそほんとうのことしか漏らせはしないのだと、お互いに承知しているいま、到底言ってはいけない言葉だから。


……しんでもいいくらい。
し、あわせ、…だと、

……そう、


髪を解いた加賀さんの頭蓋骨を、まるで、やわく食むかのように骨ばった指で捕まえて言う睦言は。
とてもひどい、エゴと情欲に濡れた言葉でした。







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タイトルはふたりへのお題ったーよりお借りしました。











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