ひまわりのように笑って(比叡と雪風)





情け無い顔を誰にも見られたくなくて向かった岸壁に、先客がいたから引き返そうとしたら、自分がUターンする寸前でがばっと振り向かれた。
後ろ姿の時点でわかりすぎるくらいわかっていたけど、このままUターンしたらこの子はすごく悲しそうな顔をすることまでばっちりわかってしまったから、仕方なく歩をすすめる。
……ああ、やだな。
そう思ってしまうのは、いまはただひたすらに打ちひしがれたい気分だったのに、この子は、わたしをまるごと癒して、救っちゃうんだろうってことが、ぶんぶんと手を振ってくる姿を見るだけでわかってしまったから。
最後の、最期を恨みだけで終わらせずに済んだ、あの日、みたいに。







おひさしぶりです、ひえいさん

そうですね。お久しぶりです


雪風は最近、叢雲に指名されて随分と南の方にせっせと物資を運んでいた。
後で返すから、と、熊野に言っていた通り、どうやら大規模な鼠輸送作戦は一区切りついたらしい、と思ったがそうそう、今度は私が主力艦隊の一員として駆り出されることになった。
駆逐部隊の必要とされない海域への出撃は、未だに少しだけひやひやしている。もっとも、駆逐艦なら――彼女でなくとも大丈夫になったのだから、きっともう少しでその不安も払拭されるだろう。相変わらずお姉さまと一緒には出撃させてもらえないけど、それは私が未熟なんだから仕方ない。あの人と一緒に戦闘とか、演習という形ですらぼろぼろだったんだから、組ませてもらえない理由は自分でようっくわかっている。
榛名となら結構、息が合わせられるようにもなってきたし。あの子、3代目秘書艦なんてものを長いこと勤めてたからか、みんなのこと、私なんかよりよほどよくわかってるし。


比叡さん、嬉しそうですね。

そうですね。雪風と会えたからかな

わあ、それは嬉しいです。


雪風にも嬉しさをわけてくれて、ありがとうございます。
にこにこと笑う彼女を見ていると、悩んでいるのがばかばかしくなった。あれはどうしようもない被弾だったって、言われたけど、の、けど、が、ようやくすぽっと抜けてくれた。そんな感じ。


今日も素敵ですね、雪風は

そうですか? 
ありがとうございますっ


またひとつ夢が叶いました。
ますます嬉しそうに足をばたつかせる彼女に、夢、という単語はとても似あっているけれど。
こんなささやかな会話で、叶う夢とは一体何だろう。気になって尋ねれば、耳元でこしょりと内緒話。


……なるほど。

ふふ、比叡さんには特別です

雪風は、いっぱい夢があっていいですねえ

夢はいっぱいあった方がいいですよ?


こんなにささやかな褒め言葉にまで。
夢、ということばを使う彼女が眩しくて、思わず、出してしまった大人のずるいため息を。
きょとんとした顔で返したこの子は、いつだって私が諦めたものを掬いあげる。


じゃあ、雪風のいちばん大きな夢は、なんですか?

それはもちろん、

…もちろん?

世界でいちばん素敵な、チャイナドレスを着ることです


にこり、今度の笑顔には少しだけはにかみがみえて、それは、今まで、こっちが一方的に癒されては救われるばかりだった私を、ちょっぴり、はっとさせる表情で。
戦艦として、大人としてもう一度生まれ直した意味をひとつ、新しく見つけられたことを、あなたみたいに、夢が叶ったと称してもいいかな、なんておもいながら。


わっ

ふふー、

危ないですよう

大丈夫ですよ。


落としません。
この大人サイズの身体は、あなたくらいなら、こんなふうにすっぽり、抱きしめてしまうことだってできるのです。
ありがとうと素直に言えない、ずるい大人の愛情表現として。







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タイトルはふたりへのお題ったーよりお借りしました。









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