とけない雪をさがしに (翔加賀・MI作戦ネタ)







うらやましい、と、思ったのだと。
褥の中でぽつりと、言われた。







……ゆるしませんよ

………しょうかく?


呆けたような声色は、とても、このひとらしくないもので。
ですから、私は、私が発した声のありかたの方には、すっかり、気を至らせることはありませんでした。


…いやですからね


ぐっと、加賀さんを押さえつけたのは、もしかしたら初めてだったかもしれません。
事後特有の気怠い四肢を、そう、使わずとも。だいたいは満ち足りていられるし、足りないならば、もっと別の方法で、ねだれば、よかったものですから。
私の方へ、引き寄せるだけでは足らず首元に擦り付けた鼻先が、加賀さんの香りを、体温を、確かに捉えたことで逆に一層、燃え上がった感情のままに思わず噛みつきましたら。


っ!!


きっとびっくりしたのでしょう、加賀さんの瞳は見られませんが、硬直した加賀さんの素肌から、それはそうとしれました。
このあたたかいかたまりを、そのまま、ぎゅうと抱きしめていたいと思いましたが、それと同じくらい強く思った、このひとの、生きた証をほかの手段で確認したいという欲求の方がわずかに、まさったので。


……翔鶴、まって、…っ、


じわり、生々しい色の滲んだ噛み跡に、唇を寄せ、舌を這わせました。きちんと鉄錆の味がして、戦場のようには勢いよく噴き出たりなどしないのは当たり前のことであるのに、……そうあっては困るからこそひどく寂しく、物足りなく思う気持ちを癒すかのように、啜り、舐める、独善的な執着。


……だから、誤解よ。
…ねえ、話を聞いてくれないかしら

……いやです、と、言ったら?


一心に舐っていたらごく間近で、一度大きなためいき。
それから無理やり、力づくで引き離すのではなく、……やさしく髪と襟足を拭われるように撫でられました。
……強情を張っていたのは私の方だと、本当は、もうずっと前から気づいてしまっていましたから。
もう、飢えた吸血鬼の真似事をするのは、そこで断念するしかありませんでした。






私と同じ、記憶を持っていたあの鬼が。
そう口にした加賀さんは、私の腕の中、少しだけ気まずそう。


……髪が、白かったから

………は?

……あなたの色だと思ったのよ。


長さもあなたと同じくらいあったし。
私よりあなたに似ているなんて、腹が立つじゃない。
いつもよりやや早口で――拗ねたようにことばをこぼしていく加賀さんは、本当に、いつも私といる、いてくださる方と、同じひとでしょうか。


……加賀さん、まぎらわしいです。

…ごめんなさい。


あなたに伝えるつもりはなかったのよ。
こんなに、言い訳がましいことばも、このひとから、こぼれおちていいようなものだとは、とても、とても、おもえなくて。
そもそもがこの体勢すら、非現実的……とまでは言わずとも非日常には数えられるに違いありませんでした。お腹の上で居心地悪そうに動くあたたかさも、呼吸のたび、ことばのたびに胸元にかかる吐息の熱も。
……私は、加賀さんの、この髪が。血よりも赤い紅よりも、鳶色を溶かしたこの瞳が、薄皮一枚、食い破れば呆気なく生きた証がこぼれ出る、この身体を持った加賀さんが、


……いやですからね

…そうね


不意に手が伸びたかと思ったら、私の髪を、器用にひと房掬い取ったこの人は。
あなただからいいのよね。なんて、ことばを、やはり私に聞かせようとは思ってはいないような声量で、声色で、つぶやいてから、ご自分の唇にそれを押し当てました。
……その仕草が、……とても嬉しかったのと同じくらい、そう、あまりに恥ずかしかったので。
この件で。私から謝ることは、結局最後まで、できなかったのでした。
翌朝、いつもの装いでは隠せないところにくっきりついた歯型を撫でながら恨めしそうに私を見てきた加賀さんを、前にしたときであってさえも。





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夏イベお疲れ様でした。なんとかE-5まで完走。
タイトルはふたりへのお題ったーよりお借りしました。










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