燈明に灯る狐火は(瑞鶴×加賀)








明るい夜が無性にさみしかったのだ。
ほてほてと歩いてゆく先は摩天楼。とは言わないまでも、いつぞや囚われていた気がする、助けに行った側だった気もする、あの世界にあった建物にとてもよく似ている重桜棟。変な時空への遠征をこなしてからの帰り道、きょうとは全然違う道を息せき切って駆けた先で鬱陶しく立ちふさがった赤と青はいまのふたりではなかった気もするけれど、時折あの片鱗が覗く、気もする。
難しいことは苦手だ。どこのわたしもそうであるかは知らないけれど、いまここでこうしているわたしは、幸運にも仲間に恵まれているから。七面倒なことは全部彼と彼女たちに丸投げして、なるたけ考えない、ようにしている。

考えない、考えない。わたしには優しい姉、わたしにばかり厳しい先輩。声ばかりがうるさい後輩、わたしが倒すと誓ったライバル、わたしのことも障害のひとつにしか思ってない先輩、本当は、苦手なところばかりが、姉にかぶってみえる指揮官。考えたくないのに考えてしまって、どうにも煮詰まるとわたしはこの道をほてほてと歩いている。
行き着く先が、果てに辿り着くのが今日になるなんて、思いもしていなかったけれど。


……何だ、また来たのか。


ノックをして、誰何の声にできるだけ綺麗になるよう努めて名乗る。きちんと礼を尽くせば返してくれる人だと知ってから、わたしはこの人の前で借りてきた猫のようになった。――とは、本っ当に口さがない僚艦の弁。礼を失してはならない、と若干の緊張を走らせているのは確かだけど、何をしても許してくれる姉や何をしても路傍の石としか見てくれない先輩とは違うから、なんだかやる気が出ちゃうじゃない、ってだけ。……だったのに、ねえ。
お喋り好きの小さな彼女たちにはぜーったいに内緒だけれど、わたしはこの人だけ、の前では、結構、


えへへ、夜分に失礼します

そのにやけ声さえなければ及第点だったのだがな……


訪い自体を不躾だとはしなかった加賀さんのことを、いつの間にかわたしはとても好き、になってしまった。







ぼふりと加賀さんの尻尾に顔を埋めてから、待て、をさせられること暫し。
後ろから抱きしめるのが好き、だから後ろから抱きしめられている。なんて、矛盾していない?
部屋を開けてくれた加賀さんはすぐに隅の座卓に戻ってしまって、栞もささずに開いていた本と仲良くし出したから不貞腐れるように凭れ掛ってあげた。もう暫し待てと言われたからじゃあもっと良い体勢で待たせてくださいと返した、結果、こうなりました。
膝の上で丸まるというにはちょっと厳しい姿勢、なのはこの書物様、がいらっしゃるからですが、ねえ?
ちらっと見た表紙は至極真面目なものだったから、わたしの嫉妬は馬鹿げた我儘にしかならなくなってしまったのでした。あーあ。もうちょっと後で来れば良かったかな。んー、でもこれもこれで気持ちいいんだよな……ちゃんと、いい夢見れそうで……キスも無しなのは勿体ないけど、まっとうに寝られるなら、これで、いいかな……


……かく、…ずいかく、

………ふえ?

付箋を取ってくれ

……ふぁい、


半ば寝ぼけたままで机に手を伸ばす。いつもこの人が使ってる文箱を大雑把に捉えて引き寄せて、中を漁……っていたらその上から加賀さんの指先が伸びてきて御目当てのものを持って行った。んむぅ、拗ねた声を宥めるように指が戻ってきて手の甲を撫でられる。それだけで直ってしまう機嫌と、戻ってきてしまう情欲が、喉からせり上がってきてちょっと噎せた。


こら、

ん、…ぅ、


この右手はそろそろ貰ってもいいでしょうか。頬と唇ですりすりと楽しんでから、ぱくり。まずは人差し指から、なぜってこの人が一番気楽に、動かしてくれそうだから。狙い通り歯茎をするすると滑ってゆく爪が、いまにも口の中切りそうだなあと思うのにたまらなく気持ち良い。端まで行ったところでちゅうと吸いつく。もう一本、お強請りが通じたみたいで中指も差し込んでくれた。自由にできる度合いが広がったからかそれとももう可愛がってくれる気になったのか、くるくる、動きが大きく大胆になる。吸い付き続けてないときっと加賀さんの膝を汚しちゃうから、だからですと言い訳できるっていいよね。すき。すてき。
あむあむと堪能していたらそろそろ離せという揺れ方をされた。ふあーい。


待たせたな、

はい、……いいえ、

……素直なのも考え物だな


目で促されたから教本(になるんだろう、たぶん)を代わりに取ってぱたんと閉じる。机の上にそうっと置けばご満悦そうな吐息、先輩のこういうところが移ったんじゃないですかねえ、というにはわたしたちはまだ一緒の時間を歩み直していない。今度こそ果たせるかな。どうかな。正直あんまりまだ実感も自信もないけど、この人があっさり消えてしまったら今度こそ大泣きする。だって今のわたしには、悼むための余裕がある。


加賀さんには、特別です

戯(たわ)け。誰にでもそうであろうが


うんと近づいた顔と顔、唇を合わせるときでさえ閉じられなかった加賀さんの瞳の中に呆れしかなかったのはちょっと不満。えー、そこは喜んだり誇ったりしてくれてもいいところじゃないですか?
これでも結構、特別に甘えてるつもりなんだけどなあ。寝られそうにない日に、つい来ちゃうところとか。キスとかそのあといちゃいちゃくっついたりとか、強請っちゃうところとか。


あまり媚ばかり売るものではないぞ

……加賀さんだけにですもん

どうだか。


……え、もしかしてこの朴念仁本当に信じてない? 嘘でしょう!?
キスの合間合間に交わしてた言葉が、段々不穏な方向に行きだしてる気がしたから一回口を休めて見つめれば、真っ直ぐ射抜き返される。青い澄んだ瞳。全部に正しくあろうとする、わたしが憧れた姿。


加賀さんにしかしません。

何故?


首筋に手を回して抱きついてるから、加賀さんの獣のところから推し量ることはできない。残念と思うけれど離れようとしたら腰に腕が回ってきて抱き締め返されたから、そんなの、観念して許すしかなくなってしまう。


……そういう、ことです


告白にしてはずいぶんと不格好過ぎやしないだろうか。この人の好くように、真面目に襟を正して、なんなら正座して向かい合って、頭を下げて言いたかった。貴女が好きですって。


ようやく言ったな


はっと顔を上げれば穏やかな笑顔。ピンと立ってるだろう狐耳が見たくって今度こそ突っ張った腕、思いのほか成功してしまったというか、いまのわたしがおいくつ馬力になってるかは知らないけど、心が締め付けられる程に綺麗な表情だった加賀さんの目が一瞬で丸くなって、


……ごめんなさい。

…ったく、


ほら泣くな若鶴。からかうときはけして名前で呼んでくれないこの人が、この部屋でだけとびきり甘ったるく囁いてくれるわたしの名前に、馬鹿みたいに落ちていった。それだけの話なのかもしれない。
他人にも自分にも厳しいけれど、律儀で情に甘い。姉には弱くてわたしの姉ともうまくやりあってて、わたしには。最初は一番遠かったと思うのに、いつの間にか。
不格好に重なりあって倒れることはぎりぎり回避できたかな、どうかなという縺れ合い方のまま、ぼやけた視界が加賀さんでいっぱいになって目尻を舐められる。よりによってそこからですか、と思ったら眼球を舌が掠めた。うひゃあ。戦場以外でそんなに勇敢ではあれない。思わずぎゅっと目をつぶると涙が押し出されてますます流れ出ていくのがわかったけれど、もうわたしにはどうしようもないしざらついた加賀さんの舌、とんでもなく気持ちいい、し。
何でかなあ。加賀さんが自分のやりたいようにしてるだけってわかってるのに、それさえがとても幸福なんだから、わたしたち意外と相性がいいと思いませんか、とか、軽口叩いてみたくなって。抱きしめたいから腕を伸ばせば、遠くでぱたりと白い尾が揺れた。


勝手に沈んだら、嫌ですからね

なんだ、藪から棒に


抱きつきついでに、今日もまたひとつ、おまじないを掛ける。
いつ言ってもぶっきら棒な返事、応諾は一度もしてくれないけど、それが加賀さんだから構わない。届いてるのは、知っているから。わたしを支えている加賀さんの左手に力が籠められ直してから右手で髪の先を摘ままれて梳かれた。


あと、わたし、
今日、あなたを抱きたいです

……恋人と見た途端に所有欲を満たしたいクチか、お前、

違いますよ!!


違う、けど。違うんだけど。
状況だけみたら完全に言い逃れができない。どうしよう、呆れられるのは今更だけれど、嫌われたり愛想尽かされたり、しないかな。そこそこ幸せに毎日一喜一憂して、キスもその先もほどほどに重ねて、そのくせ最後の一押しがないままにここまで来てしまったけどようやくハッピーエンドを迎えました、それ以外の結末を今ここで持ってこられるのはあんまりだ。いやわたしが悪いのかもしれないけど。えっ、でも、ちがうんですって!!
違うんです。どっちかって言ったら、あげたいんです。あなたにあげられるものは全部、これまでだってあげてきたけど、でもこっちなら、いまのわたしたちなら、これまでと違うかたちで。違うところまで。


……好きにしろ、


まあ、待ちくたびれたからな。
……って、加賀さん、それって。……うわあ、酷くないですか。
綺麗に笑えば大概のことは何とかなると思っていると知っているから猶のこと腹が立つ。何がってもちろん、それを許すしかない自分に。
わたしから手を伸ばしてしまっては、お前、それを口実にしてしまうだろう?
極めつけには首を傾げられて、もう駄目、一生勝てる気がしない。







じゃあ、……失礼します、

……無粋な、……ん、


こちらが遠慮しいしい布団に横たえれば、無遠慮な棘つきの言葉が刺さる。横たえてから抱きしめ直した加賀さんは、大人しく両腕に納まってくれたから嬉しくなってしまって思い切り頬擦りをする。こら、と咎める声は甘い。母性、とかそういうのはあんまり感じないけど、でも、いいよね。やっぱり。うんうん。


……また馬鹿なことを考えておるな、

……にへへ、しあわせ

緩み切りおって、


こんなに簡単に、チョロ過ぎだろう、とかなんとか、失礼な言葉が並びたてられたけれど気にしない。あわせの隙間に顔を寄せたまま思いっきり深呼吸なんかしてみたりして、呆れた加賀さんの吐息も間近で堪能して、ついでのように帯に手を添える。ほどけたところで腰をあげてくれる加賀さんにまた頬が緩んで変な声が漏れた。……っと、


……おい、服は、

ごめんなさぁい、


後で洗います、と、もごもご言っておいたけれど、絶対に嫌だという目つきで返されたので小さく頭を下げ直しておく。前も一回、キスに夢中になりすぎてこの人の半襟を汚して、責任もって洗ったら使い物にならなくなったのだ。あんなちっぽけな布、どうにでもなると思うじゃんねえ……?
わたしの涎が盛大に落ちた寝間着の未来はまた後で考えることにして、加賀さんが脱いだたから今度はわたしの番。わたしのせいで眉間に皺が寄った加賀さんが、いかにも嫌そうにわたしに手を伸ばしてくる。えー、そんな、それとこれとは分けておきましょうよ、


全く、無責任な奴だ、

っぶ、……っ!!


くっと笑って、それで終いと。してくれるこの人の潔いところが好き。……ですけど、ねえ。
思いっきり噛まれた口の端が痛い。もう間違いなく明日に残る傷、姉の笑顔も先輩の含み笑いも、その他会うだろう子たちの興味津々な顔も即座に出てきてずきずきするそれよりずっと頭が痛い。


問題なかろう?

……ありませんとも……


貴女と違ってわたしは交友関係広いんで困ります、と、ぐっさりやってあげるにはこの笑顔が惜しい。くそぅ、整った顔してくれちゃって。
その圧で乗り切ればどうにでもなると思っているだろうことが重ね重ね憎らしい。しかしわたしもいつまでも同じところばかりで転ばされているばかりではないのです、先ほどはうっかり絆されきりましたがこの手の攻撃には同種の物にて迎撃するのが一番効果的、と、わたしは貴女から学びました。


――っ、


首元、ではなく胸元、でもなく。胸板って言ったらたぶん怒られる、とりあえずいつもの戦闘服では絶対に隠せないところに鮮やかなキスマーク。閃いた怒りの炎がちりちりとわたしの髪を焦がして、うっかり漏らすかと思うくらい気持ちが良かった。危ない。
一瞬で獲物を屠る目になってくれた加賀さんの、その視線を浴びる日が来るなんて思ってなかったから。何されてもいいやと思い定めてなかったら本当に昇天してしまうところだったかもしれない。思いが通じあって初めての夜に腹上死。……うーん、それはそれで。


ったく、仕方の無い奴だ

ええ、加賀さんも。


鬱血した箇所に指先をやって、ついたわたしの唾液を舐める仕草に、じくりと、膣が疼いた。加賀さんにもバレたみたいでくっくと嗤われる。どうするのかと目で問われたから、続けますよと伸びあがってキス。何せ、この一回だけで今晩が終わり、なんて、誰も言っていませんし。
そろそろと胸に手をやれば、相変わらず逸らされない視線が追ってくるのが判る。そんなに真っ直ぐに在り続けるの、時には辛くなったり、しないんですか。いつか一寸休みたいと思ったときに、思い出してくれるのがわたしだったらいいなあと不遜にも思いながら先っぽに唇を押し当てて、やわやわと触れる。……前にいきなり思いっきり吸い付かれたの、痛かったもん。加賀さんも同じこと思い出したのか、こちらを向く視線に照れ笑いみたいな色が混ざった。ちろり、わざとらしく舌を出したら目を細められたから、それじゃ、いただきます。

ぺろりと舐め上げてから、ちろちろと少しずつ吸う。ちょっとずつ腰の方に手をやって、指の先だけで撫でたらひくんと震えた。加賀さん、知ってたけどこっちの方が弱い。
いつもこの辺で気づくとひっくり返されちゃうんだよなあ、ぼんやり蕩けた頭で考えながらすりすりと、くびれを撫でては胸元まで辿らせていたらぽすりと頭に手がやられた。んー、どうしましょう、もうちょっと楽しんでもいたいんですけど、口の方、変えましょうか。

ぐっと屈んだらよくできましたというように前髪をかき回される。共同作業みたいでなんだか楽しい。お節介なしたり顔がそれでいいの? なんて脳内で笑ってきたけど、うぅん、あんまり悔しくはない、かな。
いきなり肝腎な処にいくのはわたしが怖かったから、太腿をそろそろとさする。同じ道筋で舌を這わせて、見上げた加賀さんは、なんとも挑発的な目をしていて。


っ、……ずい、かく、


思わず触れてしまった秘所は、思ったよりずっとあたたかくぬめっていた。
泣きたくなるような感動、って、こういうことを言うのかなあ。へにゃりと笑み崩れたのが自分でもわかって、加賀さんの照れ隠しの鉄拳が、……あれ降ってこない、可笑しいな、


……ったく、


怒る気も削がれるわ。
ためいきと共に手を伸ばされて頬を抓まれて。こちらがそうするより先にぎゅうと挟み込まれる腿、下生えの擽ったさを堪能していたら呆れた空気の塊がぽかり、落ちてから不意打ちで耳を食まれた。
渋々と意思を持って加賀さんのそこに触れる。ぬるりとしたそれを絡めているだけでどうにかなってしまいそうだったのに、苛立たしげに――もどかし気に? 揺れる腰がわたしの前でわたしにだけ晒されてるってのが、もうどうしようもなく、


……加賀さん、大切にしますから、

……いきなり重いことを言うな、


抱かれてるだけなら、ふわふわ、気持ち良さに浸っているだけで良かった。
加賀さんから促されたなら、やっぱり、言い訳と共にこの肢体に溺れていただろう。
そうでない選択肢を強引に選ばさせてくれた加賀さんには、とても感謝しているけれどものすごいプレッシャーもある。だって、これ、このあと、わたし、どうやって、

ふるふると怯えていたらぐいと引き寄せられ、口づけられた。加賀さんは相変わらずキスが上手だ。……わたしよりずっと手馴れている、っていう意味であって、ほかに比較する人なんかいないんだけど。好きだなあって思うし気持ちいいなあって思う。舌先できゅうっと私のそれを締め上げられると、ぶるり、性懲りもなく震えてしまう。

破れかぶれに触れた蕾に、加賀さんがぴんと肢体を仰け反らせた。んぐ、と呻くような声、どうにも覚えがあるそれは確かどうにも焦らされて我慢が効かなくなったときにわたしが漏らしたものに、良く、似ていて、


いっ……!

……ごめんなさい、加賀さん、


好きです、と一息に言って優しく触れ直したらむずかるように加賀さんの腰が逃げた。そんな、加賀さんでも逃げようとすることがあるんだ。なんだか感激してしまって、くりくり、痛くはならないように気を付けながら触れ続ける。はっ、はっ、と浅い息を立てている加賀さん、赤く色づいた唇がとてもおいしそうに見えたけれどいまむさぼったらほかのところへの集中力が途切れちゃうだろうから我慢して、ゆるかに刺激を与え続ける。ひくひく、震えが段々大きくなって、あっと思ったら背中に鈍痛が走って、そのまま絞め殺されるんじゃないかという勢いで抱きしめられた。


は、……はっ、……

……


何も言えなかった。ありがとうも愛してますも。
情けないなあって思うけれど、加賀さんの熱がどうしようもなく思いを伝えてくれたから、同じようにわたしも伝えられてたらいいなって思うことにした。
軽く達した、だけじゃ足りないことくらい、わかってますよ。わたしが何回、貴女に鳴かされたと思ってるんですか。


ふふ、好きです

………


ようやく口に乗せられた一言は、告白だと呼ぶにはやっぱり不格好。でもわたしから先に言った。言えましたもんね。
生意気だと顔に大書されていたけれど、構うものですか。返杯のようにそっちから仕掛けてくれた口付けは、……まあ、わたしの頭がすっかりおかしくなるくらいには情熱的、だったもので、


……っぐ!!


そっと、指を挿し込む。ぐうっと加賀さんの喉が唸って、蒼かったはずの瞳にちらり、西日のような色が混ざる。ずりあがろうとしてくる腰を掴まえて、離してはあげないけれど無理矢理動かしたりはせずに、じっとしたまま他のところにたくさんキスを落とす。
噛みつかれるかと思ったけれど、荒く浅い息は最後までわたしの名を呼ばないままで痛みに耐えきったみたいだった。繋がってる、たぶん初めての加賀さんと、そんなにびっくりするほどの感動が吹き荒れたわけじゃなくって、ただじんわりと、幸せだなあって、


……っ、……ぅっ!………あっ、


だから加賀さんにちゃんと気持ちよくもなって欲しくって、しばしご無沙汰だった蕾にもう一度指を添えて、そっと真上の空気を揺するように触れる。触れるか触れないか、それくらいのつもりだったのにこの人の腰が揺らめくように伸びあがってきて、……勝手に、


んっ……!


いつの間にかきつく閉じられていた瞳から一筋、つっと伝わせながら口を緩ませて、満足げな吐息。怖々触れてたのがばかみたいなよがり方、強引で自分勝手で、主導権なんてちっともくれなくて、でもこんなにいとおしいと思える、素直すぎる痴態が。わたしに好きにしろと言いながら、自分の欲しいもの全て手に入れきって微かに笑っている。


まだ、ですからね、


まだ、いっぱいあげますから。蕾だけじゃなくて中でも気持ちよくなってくれないと嫌ですから。もっともっと高らかな嬌声も、絶頂もそのあとの蕩けた顔も、わたしに一番にくれないと、嫌ですから。


加賀さん、愛してます、から、……ね、


まずはその可愛らしい喘ぎ声、わたしの口の中にください。










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