零されても受けきれない(瑞加賀)





いや、いつもから結構なりふり構わない戦い方するなあとは思ってたんだよ?
そういう意味ではいつも通り、なんだろうこの先輩は、今回は相方の赤い人が一緒じゃなかったからか戦闘服が変態的に薄い衣装(と言ったら呆れ顔で叩かれた)だったからか、返り血も煤も含めてべったり真っ赤で真っ黒でまあ酷い有様だった。肩と脇腹の傷口もぱっくりと見えちゃって、映倫指定に引っ掛かりますよ重桜棟を横切る前にチビたちがいなかったかどうかちゃんと確認しましたかー? せんぱーい?


なんだ、おまえ……か、

はいはい、瑞鶴です。
血塗れもいいけどあとのことは考えてください

くだらん、
お前が、考えて、くれるのだろう?


これがデレだと思えてしまうところが良くないんだろうなあ。あーあ。
わたしが駆け寄るや否や遠慮なくもたれかかってきてくれた加賀さんは、気を使っていない分の重さがあって抱え上げるのは中々にしんどい。っていうかあなた傷口から普通に発熱していやしませんか。大丈夫ですか。


姉さまの分はわたしが考える。お前だって、

はいはい、どうせ翔鶴姉頼りですー

それで回るなら良いではないか

そのカッコで凄まれるとなかなか迫力ありますけど、
わたし、その服気に入ってるんです

……そうか、


ならやめておくか、と水着を引きちぎろうとしていた手を止めてくれるところ。修復室に寄る前に、約束通りわたしの元に来てくれたところ。恋は盲目、愛は献身。いいとこどりだけ出来たらいいんだけど、生身の身体に芽吹いてしまった心とやらは中々ままならない。出撃だと知ってたら、ましてはこんな怪我を負うとわかっていたら時間も場所も違うものにしましたよ!と毒づく前ににやりと笑まれた、それだけで渦巻いた感情の嵐を本人に見せてあげたいけれど、どのみち、その誇らしそうな表情ひとつでわたしの結論は決まってしまう。
個室と呼ぶにはずいぶん狭い空間への扉を押し開けて入る。わたしが入っても何にもならないけど入ってはいけないという法は無い。青だか白だかの気持ち悪いポリゴンめいた明滅はわたしは正直ちょっと苦手だけれど、加賀さんは気にした風情もない。必要なら受け入れる。一切の感情を振れさせることなく。加賀さんはそういう人だ。


はい、降りてください

うぁ、……っ、


無意識に漏れただろう苦悶の声に、正直な話ちょこっと欲情した。こんなに至近距離で唾呑み込んじゃったものだから、そりゃあバレますよねわかってますよ、でも怒るんじゃなしに愉快そうに嗤ってくれるのが加賀さんっていうお人なんですよねえ、……あー、後が怖い。


……にが……

それは重畳、


加賀さんがじわじわ治ってくのにあわせて、副次効果で水着のほつれもわたしについた血も、まるで何にもなかったかのように消えていくのにはやっぱり慣れなくて、直視してると精神が参ってきそうだからと言い訳をして。繰り返した口づけからもだんだん血の味がしなくなっていく。
何本かの尾にべたり、赤黒くペイントされていたのも次第に溶けるように薄まっていって、でも凝固していたところは完全にはふわりとした毛並みに戻らない。心無ししぼんで見えるから左右不対照で、この人のパーツとしては不格好。あーあ、こんな風に手持ち無沙汰になるってわかっていたらブラシの一つでも持って来れば良かった。
駄目元で手櫛を試みていたらふふふと愉しそうな吐息。ちょっ、加賀さん、それ、その空気の通し方、わざとでしょう!!


なんだ、つまらん


そんなに楽しそうな抑揚で言う台詞じゃありませんからそれ!!









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