日の出前、朝餉前(瑞鶴×加賀)





秘書艦であろうとも、そうでなかろうとも。
公式に達しはなくとも、なんとなしに決められた差し入れの当番は、所属する陣営毎にわけられその中での割り振りは好きにしろというなんともまあ大雑把なシステムだ。むろん重桜部隊の帰投のときの担当がユニオンというような事態もまま起こり得るしそういう場合は交代したりもするが、最近では各々で交流も進んでいるからむしろ腕鳴らしの場だと異国の料理研究に精を出すものもいるらしい。全く物好きだ。軽食は軽食だ。やたら凝る必要もあるまい。


加賀先輩もやさしいですよねえ

なんの話だ


にやにやしながらのんびりした口調で話す五航戦は、以前清めてもいない手でちょっかいを描けて来ようとしたのを本気で叱ったのが効いているのか、一定以上はけして近づいてこない。わたしは手も洗わず髪もまとめずに触るなと言っただけで、遠くでお邪魔虫になっておれと言った覚えは無いのだが、な。


お前もつくればよいだろうが

えー、いいですよ、


わたしは作ってもらいたいです、と、顔に書いてある。
加賀先輩に作ってもらうの大好きですとも大書されているから、……まあ。


朝から揚げ物はせぬぞ

わかってますよぅ、


胡瓜。キャベツの酢漬け。薄く切った燻製肉。トマト。マヨネーズにマスタード。
汎用の、というと言葉は悪いが、もうすぐ帰る二艦隊分全員に満足――とまでは言わずとも不満は出ぬよう、均一化された品々。
握り飯とパンを同時に用意するのを煩わしく思うこともあったが――あのときは演習でロイヤル共に負けたのが尾を引いていただけとも気づいている。
八つ当たりで品数を減らすより、だからこそ完璧に仕上げてやる方が、いやらしく愉しいではないか。


お前のためなら考えるが

ぅえっ、


蛙か鳩がつぶれたような声を上げた鶴の方に顔だけ振り向けば、情けなく熟れた照れ顔が居心地悪そうに鎮座していた。
うーむ、幼いとまでは言わんが、


青いなァ、

……はぁ。


さて最後に半端に残ったら小さく握って手ずからくれてやろうとも思ったが釜の中の飯は丁度使い切りだな。今日はおこぼれが無いと勘づいた後輩が途端しょげた目で見つめてくるが、仕方あるまい。





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邂逅二十秒(瑞鶴×加賀)





あっ加賀先輩!


叫んだあとで、赤城先輩もこんにちは、とにこにこ告げる鶴は本当に裏がないところがよい。やったあラッキーと顔にかいてある。以前自分でそう称していたのがなんとも陳腐でそのときのわざとらしくやや黄色い声と共にすっかりインプットされてしまった。ありもしない耳や尻尾がぶんぶん振られてみえる、このようなときは決まって思い出す。


用があるから、またな

はぁい、


すっと引き下がる顔の聞き分けのよさが、かわいくも憎らしかったからすれ違い様に顎を取って口づけた。予想通りにうえっ!?と上がる声、右隣からはおかしそうな忍び笑い。


加賀は、かわいいわねえ

わたしだけですか。

そうね、あなただけよ。


姉の澄まし顔は端の方がすこし見切れていて、そこに乗った感情を考えてみようとして、やめた。気兼ねなく言えるのは、という副音声に眉をあげるだけで返す。
あやつの姉にまで配慮してどうするのだか。そういうところが姉様なのよな、と出た嘆息は出すつもりのなかったもの。ああ、書類で手が塞がっている姉様が訝しげにわたしをとらえてしまった。


ねえさまは、やさしいですね

ばかおっしゃい


さっき無理やり片手にまとめた荷物の重さに耐えかねたからと言い訳をするかのように、ことさらゆっくりとパソコンだのプロジェクターだのを抱え直す。ずしりと重い感触、働いているのだという実感とともにさきほどの幸福な感触をいま現在から過去へ、思い出の箱に放り込んでしまおうとして、姉様にまた笑われてしまった。





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