一献の価値も無い(瑞鶴×加賀)





来週の献立に前回の月見会、そのあとの乱痴気騒ぎと抜け出してからの同衾、最近演習場で起きたしようもない連係ミス――あるいは無謀な作戦に付随する挑戦と失敗の記録。新しく実装された装備の使い心地。浴場で見た誰それのスタイル。些末な出来事を報告し合っては肴にする、他愛もない夜。そんな中でふっと転がり出てきた話題だった。


お姉ちゃんって呼んだほうが喜ぶんですよねえ

そうだな、わたしもだ

赤城先輩、そうですか?

さて、最近はそうではないかもしれん

どっちなんですか

なんだ、思い出話をしてほしいのではないのか


概ね最近の事象に偏っていたから逆に、警戒も慎重さもすり抜けてしまった。瑞鶴はきょとんとしてからふわりとわらって、それから少しばかり呆れた瞳を覗かせて、相変わらず器用にくるくると表情を変える。驚かせるのも喜ばせるのも、もちろん苛めてやるのも大層好きだが、今日はなんとなく、あまりわざとらしく手を加えずに堪能していたい気持ちが勝った。


そもそもわたしのほうが年上だぞ

あっ……!

お前、知らなかったのか

いえ知ってましたよ!? 
いっ、たい痛いいいいぃっ


よく伸びる頬を戯れに抓りながら、わたしも大概ガキだった頃を思い出す。
わたしより幼かった赤城はけれど賢かった。童らしい純真さと素直さを武器に駆け回り立ち回り、賢しいばかりのわたしをうまく使ってあの酷い環境を生き延びさせてくれた。姉と呼ぶくらいなんのことはなかった。どちらが上なのか、一発でわかる呼称で関係。赤城がにこやかに受け入れてからわたしは今日に至るまで彼女の妹分だ。
決めるのは赤城だ。止めることはできる。そう思い定めてから幾星霜、まさか五航戦なぞと恋仲になる予定はなかったが、全くわからないものだ。


大先輩に失礼なやつだ

その大口上がゆるされるのは三笠先輩くらい、あいたぁっ

ほほう


雑に献杯をされたから首だけを動かして貰おうと横着をしたらぐいと引き寄せられた。こら止せ、せめて飲んでからにしろ。口元は杯で塞がれているから目線で非難。馬鹿な鶴はそれにこの上なく嬉しそうな顔をしてけらけらと笑う。飲み口が遠ざかって間近で聞こえ出すご機嫌な咀嚼音。おいお前いま揚げ物を素手で取ったな。いくら無礼講でも半分伽のような時分であろうとも限度があるぞ。はあとこれ見よがしに溜息をついてやればバツが悪そうに指先を舐めとる音がひちゃりと。そういうことではない。それから開き直ったのかその指を人の口に突っ込もうとしてくる。阿呆か。甘く齧ってやれば息を呑む気配。ほとんど味もしない。ふん、酒のツマミにもならん。


いまわたしの腕に抱かれてるひとにいわれてもー

なんだ不満か

いい え !


抱かれたのはお前が失礼な発言をした後でだし、お互い少しずつより好いところを探して動いた結果、腕にすっかり抱きとめられるようになってしまったのはもっと後、お前が人に悖る食い方をしてからだ。全くくだらない。くだらなすぎて、わざわざ告げる気にもならない。


ふへへー

おいばかよせ!

あー…すみません、
でもえっちのときとかいつも、

何が悲しくてそうではないときにバカな後輩によだれをたらされねばならんのだ

馬鹿って言うことないじゃないですかぁ…


そろそろガキが駄々を捏ねているようにしか見えなくて頭が痛くなってきた。おい、そろそろ改めんと醒めるぞ。視線が合わない状態では口に出さねば通じそうになかったから溜息ののちに宣告してやる。うええ、とやはり素直過ぎる不平の言葉と共に切り替えたのが肌でわかったから寸でのところで及第、というには、流石に改心後の行動が早すぎはせぬか。この馬鹿。




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