やわらかな羽と(ミアプリ)





空が落ちている。
全身を投げ出したプリシラのとろんとした顔。葛藤と強がりが抜け落ちた瞳が無防備にこちらを向いていて、それらがたっぷり乗っていた頃を懐かしく感じ、その情動のままに口づけ直した。口は開けられた、舌も伸ばされた、けれどそこから先は微かに震えて待つばかりの唇に吸い付いてから犯してゆく。望まれているところをそのままになぞる。そればかりで良いわけでもないけれど、いまはたぶんそうされたいとき。
彼女の目が閉じられたのを睫毛が起こした風の動きで感じて、きゅ、と舌を吸い上げれば鼻にかかる息。長い指先が髪に埋まったのはその後で、痛くしないよう加減ができたのを満足気に、ふふ、あなたのこういう素直なところが好きよ。
こんな形でしか素直さを発露しない強情さも勿論、とても、好きだけれど。それはどちらかというと、仲間とか友人とかという名前の箱に入った信頼関係の元から生まれている。
どちらも裏切りたくなくてなおも身を寄せれば、人の襟足で遊んでいた手がするすると降りてきて、背中をなぞり、またひとつ溜息が落ちる。この子の唾(つばき)から吐息からそれまでが、愚かなほどに甘い。





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やさしさのおり




……そうね、プリシラ

………はぅ、ぁ?

あなたはまず、抵抗の仕方を覚えなさい。


あなたにこの形で迫ってくる敵もきっと、今後必ず出てくるわ――と。
元来非力な妖精に無理難題を。軽口を叩くには真剣が過ぎる瞳。嗚呼、貴方のこういう視線が好きなのですと。告げることはできないまま、ひゅうひゅうと喉が煩い。ひ弱な妖精に、なんて仕打ちですか。


…みあさ、

ん?


応答を得られるとは思っていなかったという反応。可愛く小首を傾げられた、その鎖骨近くからは狂おしい程の色気が出ていた。成長しないなんて嘘、このひとのこの手管を、この振る舞いを。貴女の愛情と受け止めるために、私は、有り得たかもしれない貴女を幻視する。


……ありがとう、ございます。

………ふふっ、


なあに、それ。
やわらかなその声がすき。告げるために口づければ返る優しさに、抵抗などという発言ごと忘れ去りそうになった刻は僅か、貴女に与えられるなら結局は歓喜になってしまうのだからと告げられたのは想定よりずっと後、私としたことが、とんだ無様だ。



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Re:やさしさのおり






苦しくない、と証明するために必要な物物のいくらかを。
わたしたちはどうやら、すっかり忘れてしまったようだった。

息が細い。目線が低い。視界が、狭い。ミアさんの短い腕に囲われて、すっかりぎゅうぎゅう詰めの中で、呼吸と一緒に思考力を奪われ続ける。捕らえられた体勢。いま両胸の間に杭を刺されたならばきっと無格好な標本が出来上がるのでしょう。縮こまって唇を貪られて、荒い息と一緒に零れる唾液を、隠すことも拭うことも能わずに。

羽が壁に擦られて顎を強く取られて。なぞられる場所すらもう疾うに解っているというのに、抵抗が覚束ない。ミアさんの腰に回した手が、指はぎゅうと彼女の服を掴んでいるのいそれ以外には何もしてくれない。形ばかりの拒絶。唇が離れる度に寂し気に吐かれる息に、顔を覆ってしまいたくなる。この指が動けば、この首が逸らせれば。きっと、ミアさんから離れてしまう寂しさに泣いてしまいたくなるのでしょう。


だいじょうぶ?

……は、


睨みつければ肩を竦められた。ごめんなさい、ルール違反だったかしら。言葉にしたことも書面に示したこともないそれは、わたしたちが確かに持っているもの。安心を得る手段を優先すれば、時々身体が軋む。ミアさんの短いけれど分厚い舌の、小さいけれど意地悪く蠢く指先を覚え込まされる毎に、誰でも良かった、が、彼女しかダメ、に変わってゆく。
ミアさんがそうであるかわからないから、苦しいのだとは告げない。縛られた身体が窮屈なだけだと強がる私の襟足をミアさんが擽る。容赦の無い手管にぶるりと震え、つい左手が彼女の服を滑ってゆく。


……あなたね、

んっ、……は、


落ちたのだから仕方ないでしょう。抵抗の仕方を覚えろと言ったのはミアさんでしょう。闇雲に手を動かせば息を吐く音。呑む音、で無かったのが残念ですが彼女の情欲は恐らく誘えた様、だけど余裕を刈り取ったというにはとても足りないような気配。
それに悔しいよりも安堵が先に来るのだから私も救えない。でも貴女以外にならどうとでもやり込められるようになりましたよと、告げるにはとても足りない熱。はやく、早く私をもとめ尽くして。下さい。



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