裏腹(シノマリ)






攻め立てて責め立てて、それにああとかぐぅとか、兎に角堪(こら)える声をあげて。それすらが私の歓びを呼んだからふふと笑えば、ぴくりと震える。
俯せてそっぽを向いてしまったローズマリーさん。可愛い。優しい。愛おしい。
あの子の影が一瞬ちらついて消えた。


…っ、は、あ?

かわいい、って言いました。


焦ったような、焦れたような、少しだけ不安の混ざった声がとても甘くて。
睨みつける気など端からなさそうな蕩けた目に引き寄せられ、今度こそ深く口づけた。
少しかさついた唇。自分も似たようなものなのだろう、ぺろりと舐めると柔らかく震える。


ぁ……!


五分五分だと思っていた賭け。彼女たちのかつての旅と、彼女たちの変わらぬ性格。勘案して導くのが彼女の純潔なのだから、とんだ純情だ。
深く、息を吐(つ)く。醜いまでの情動を抑えるのに必要だからと思ったのが半分、残り50パーセントはその情動に突き動かされた心が押し出した想い。零れ出て、媚薬のように沁み込んで行く甘露。
どうせなら、貴女が零したものの方が欲しい。


マリーさん、

……ん、


……ふ、と違和感。
ちりと焦げた疑念が燻り、熱っぽく見つめていた筈の瞳を濁らせる。気づいた彼女がすぅと同じ瞳を返したから確信に変わる。そもそも私だって然程経験が有る訳では無いのだけれど、こんな時に外したりなどしない。自尊心の源を思えば心が暗くなるから、蓋をする私をマリーさんは胡乱な表情で見上げている。……傷ついた、顔で見つめてくる。


……好きですよ、

………ええ、


有り難う御座いますという返答を囁き声にしたのは、自分ながら英断だった。だってこんなにも震えている。腸が煮えくり返っている。同時に醒めきっている。どうして、と、嗚呼矢張りが同居して、けれど私が責めるのはどちらの場合も自分自身。
……この王国に来て、良かったと思える所。

ひゅ、と呑まれた息は先程の物ととても似通っているのにとても似つかわしく無く。重ねた口付けで重なり合った舌はお互いによそよそしかった。気づいていると告げている態度、消せない硝煙の残り香が憎いと縋るには、まだ、遠い。
貴女の一時を貰える身分になったよりも、と告げるには足りない心身の距離。通じ合えているのに、両思いなのにと叫ぶ心。震えた身体は精神に引きずられて、引き攣れたように墨色に染まった。





--------------------------------------------------------------------------------------













inserted by FC2 system