枯れ葉の紅 Ⅱ(江蓉)
「何をしていたの?」
言い方が多少刺々しくなったのに、しまった、と思う。蓉子はこういう感情の揺れにひどく敏感だ。
「……紅葉が、綺麗だったから」
「わざわざ庭に出て? ここからでも見えるじゃない」
少
し間を置いて、ゆっくりと返す蓉子はどうやらぼんやりとしていたらしかった。風邪を引きかけの時に似た雰囲気を纏う彼女に、本調子じゃなかったならバレな
かったかもしれない、とまず考えてしまった時点で私は随分と利己的だ。それで構わない、と最近開き直るようになった。蓉子をこれ以上慈しみ愛情を注いだと
ころで、蓉子が私にかける好意が増えるわけではない。
「だって、これ」
「……よく持ってきたわね」
「あ、い、いけなかった?」
「そうじゃなくて、崩れやすいでしょうに」
「それは大丈夫」
ふ
うわりと笑う蓉子は、年相応に見える。よく笑う子だった。すぐに怒って、でもすぐに許してくれる子だった。それが蓉子なりの優しさなのだと気づいたのは最
近のことだ。この子は自分のためには怒らないのだ。握りしめた小さな拳を、悔しげに噛み締める唇を、何度陰から見てきたことか。
「このくらいの赤がね、好きなの」
少し恥ずかしそうに告げる蓉子の手に包まれた、ひとひらの落ち葉。私は蓉子が噛んだ唇の赤さの方が好きだ。不意打ちに頬を染める、柔らかな色を本当はとても大切に思っている。 だ
からたまに意地悪をしたくなるのは虐めっ子の心理ね、とこども染みた支配欲と独占欲を呆れながら俯瞰する。困った顔は羞じらいに似ているし、表情とともに
ゆるむ唇からは愛してると今にも言われそうな気がする。叶えば予知、叶わなければただの妄想。望まぬ方にずっしりと重みを乗せたままの現実の中で、蓉子が
綺麗に笑っている。
思わず引き寄せれば身体を固くした。何もしない、何もされない。それがむしろ不自然で苦痛となるほどの距離に身をおいて、私たちは見つめ合う。 先に目を逸らしたのは私だった。
「押し花にでもしましょうか」
疚しい思いがあるからだなんて、自分が一番よくわかっている。
「……凸凹があるから、割れてしまうわ」
「じゃあ飾っておきましょう」
私の部屋なら、どこでも良いわよ。
吐き出した囁きでも届く静けさ。本当はその艶やかな黒髪にかんざしのように挿してやりたい。当の蓉子に見えない仕打ちは私を心から楽しませるだろう。
忙しい蓉子にははなから無理な注文を。心の中でもてあそんで私は部屋を後にする。障子を開け放つと目に入る中庭で色づく楓は確かに綺麗だった。さっきのあなたほどじゃないわね。呟く私の後ろでは、可愛らしい花が一輪色づいている。
→Ⅲ
|
|